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広島・森崎浩司が現役引退を決意したきっかけと思い

2016.10.21

ms1_7162|ゴールした試合が引退を決意するきっかけになった

2016年9月16日に行われたJリーグYBCルヴァンカップ準々決勝第2戦だった。サンフレッチェ広島の森崎浩司は、アウェイで行われたガンバ大阪との一戦で、今シーズンの公式戦初先発を飾った。それは、度重なるケガにより、なかなか出場機会を得られずにいた浩司が、ようやくつかんだチャンスだった。

1-2の劣勢で折り返した後半7分、広島はFKを得ると、浩司が得意のFKで直接ゴールを狙う。左足から放たれたシュートは大きく曲がって落ちると、ゴール左スミに決まった。相手GKは一歩も動けず、見送るだけだった一撃は、まさに鮮やか。35歳になった今なお、培われてきた技術が色褪せていないことを証明するものだった。

ゴールを決めた浩司がベンチに向かって走っていくと、真っ先に佐藤寿人がベンチを飛び出して祝福する。これには、苦楽をともにしてきた同級生二人の思いを感じ取り、胸が熱くなった人も多かったことだろう。

ただ、同点から3分後に再び逆転されると、広島は3-6で完敗する。そして浩司は、歓喜の雄叫びを挙げた一方で、この試合が大きなきっかけとなり、現役を引退することを決意していた。

「あの試合でゴールという結果は残せましたけど、やっぱりフィジカル面においても、メンタル面においても、試合に向けてコンディションをベストの状態に持って行くのが難しいなって感じたんですよね。ガンバ戦は、得点こそしましたけど、逆にJ1って、プロの世界って、厳しいなって思い知らされた。6失点という情けない負け方をしたとき、自分は何もチームの力になれなかった。それにね……やっぱり以前よりも、できることより、できないことのほうが多くなってしまったって感じたんですよね。年齢を重ねていけば当然のことかもしれないけど、それを痛感させられた試合だったんです。そのとき、はっきりと決めたわけではないですけど、あのガンバ戦が現役を引退する決め手になった部分は大きいかもしれないですね」

10月20日、育成年代から数えれば20年、プロになってからだけでも17年を広島一筋で過ごしてきた浩司は、今シーズン限りで現役を引退することを表明した。

ms1_7086|プロになってからは楽しいより苦しかった

そのキャリアを振り返れば、浩司は2000年に双子の兄・和幸とともに広島ユースからトップチームへと昇格した。育成年代の日本代表にも選ばれ、2004年にはU—23日本代表としてアテネ五輪にも出場した。2007年に広島はJ2降格の憂き目にあったが、その際もチームを支えると、2012年、2013年のJ1連覇、そして昨シーズンのJ1優勝に貢献した。

ただ、華々しいキャリアの裏で浩司は、度重なる体調不良(オーバートレーニング症候群)に苦しんできた。完璧を追い求める性格が災いして、自身のプレーに納得できないことが、その一因を担ってもいた。浩司が、こんなことを話してくれたことがある。

「サッカーを楽しもうってよく言うじゃないですか。でも、35歳になった今でも楽しむのって難しいなって思うんですよね。プレッシャーの掛かる試合になればなるほど、勝ちたいと思えば思うほどに苦しくなる。子どものころは純粋に『サッカーって楽しいなっ』て思いながらやっていましたよ。でも、それが仕事になってからは、ほぼ、そう思えることはなくなりましたね」

だからこそ、G大阪戦が契機となったのだろう。自分の理想と実際のプレーがかけ離れていることをピッチで痛感したことで、彼は現役を引退する気持ちを固めていった。やりきったのかと問われれば、まだまだやれるという思いもある。特にここ数年は体調不良とケガに悩まされてきただけに、悔しい気持ちがないわけではない。ただ……。

「ケガから復帰して、チームメイトのケガもあって試合のメンバーにも入れるようになった。そこで、もう一度、自分を奮い立たせることができるかなって思ったんですけど、試合に向かっていく準備の段階からきついなって感じて、果たして今の自分の中のベストを尽くせるかなって思ったんですよね」

ms1_7150|最後まで明るくチームメイトに伝えたメッセージ

浩司が、最終的に現役を引退することを決意したのは、10月上旬のリーグ中断期間中だった。そこから正式な発表に至るまで、チームメイト一人ひとりに話す時間はなかっただけに、せめて長くプレーをともにしている選手だけには直接、伝えようと思ったという。

双子の兄・和幸はピッチの指揮官と言われ威厳を醸している一方で、弟の浩司は次男らしく無邪気で、後輩からもいじられるムードメイカーでもある。しんみりされるのが嫌だから、朝、練習前のロッカールームに一人でいる佐藤寿人を見つけると、さらりと言った。

「オレ、今シーズン限りで引退することにしたわ」

佐藤が広島に来て今シーズンで12年目である。加入当初より二人とも大人になり、それがまた照れくさいから、浩司は会話もそこそこに切り上げると練習に向かった。

キャプテンの青山敏弘にも昼食会場を出たところで声を掛けた。

「あのさ、オレ、今シーズン限りで現役を引退することにしたわ。今まで、ありがとな」

すると責任感の強い青山は、目の前で号泣した。

「浩司さんがケガしているとき、キャプテンなのに、あまり力になれず、すみませんでした……」

これは実に浩司のキャラクターが出ているが、場所とタイミングを考えず、軽い気持ちで話してしまったことを、本人も少しだけ後悔したという。そして、涙する青山に浩司はこう言葉を掛けた。

「みんなとサッカーできるのもあと少しだけど、できる限り長く一緒にプレーしたいからさ。天皇杯の決勝に連れて行ってくれよな」

双子の兄である和幸には、「ずっと相談していたし、特にかしこまって伝えていないですね」と言うところも浩司らしい。ただ、初めてサッカーボールを蹴った子どものころから今日まで、片時も離れることなくプレーし続けてきた兄弟であり、相棒への思いはある。

「間違いなく、カズ(和幸)がいたから、ここまでサッカーを続けてこられた。それはあいつよりも僕のほうが感じていると思います。ここまでカズに引っ張ってきてもらったなって。あいつは一人でも何とかなっていたと思いますけど、僕の場合はあいつがいなければ、きっとプロのサッカー選手にすらなれていなかったと思います」

ずっと見てきたから分かる。完璧を追い求めるがゆえに苦しんでいたことも、そこに到達できないから現役引退を決意したことも。そして、大事なことと分かりながらも、相手の悲しい顔を見るのが嫌だから明るく伝えようとしたことも。

広島のレジェンドはユニフォームを脱ぐその日まで、きっと森崎浩司らしく現役を全うするはずだ。

そして今シーズン、すでにリーグ優勝の可能性がなくなってしまった広島の選手たちにはやるべきことができた。それは17年間、チームを支えてきた背番号7と、少しでも長くプレーするために、残された最後のタイトルを獲りに行くという目標である。

文:原田大輔
写真:佐野美樹

 

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