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広島を支えた佐藤寿人と森﨑浩司が最後の試合で見せた姿勢[COLUMN]

2016.12.26

|佐藤寿人のチャントに合わせてスタジアムがひとつに

試合後のスタジアムは、少しばかり異様な雰囲気だった。

クリスマスイブの12月24日に行われた天皇杯準々決勝は、Jリーグチャンピオンシップ(CS)を制してFIFAクラブワールドカップ(CWC)でも準優勝に終わった鹿島アントラーズが、サンフレッチェ広島を1−0で破って準決勝に駒を進めた。県立カシマサッカースタジアムで行われたその試合後、鹿島はCSとCWCの報告を兼ねてセレモニーを予定していたが、アウェイ側の一角に陣取っていた“紫のサポーター”から次々にメッセージが掲げられた。

「何処にいても戦い続ける寿人が好きだ」

「いつかまた必ず佐藤寿人と闘いたい」

それとともに広島のサポーターは、佐藤寿人のチャントを謳い手拍子をはじめると、セレモニーを見届けようと残っていた鹿島のサポーターからも拍手が沸き起こった。ホームのゴール裏、バックスタンド、さらにメインスタンドと、広島のサポーターが謳うチャントに合わせて手拍子は広がっていく。

まさに自然発生だった。それは国内最多のタイトル数を誇る鹿島のサポーターたちもが、佐藤寿人という一人のストライカーが築いてきた軌跡と実力を認めていたからこその敬意だったように思えた。今シーズン限りで12年間プレーしてきた広島を去り、名古屋グランパスへの移籍を表明している佐藤は、その歌声と手拍子に感謝するように挨拶すると、ピッチを後にした。鹿島もまた、その拍手が鳴り止むまでセレモニーを待つ粋な計らいを見せた。その光景は、日本サッカーが世界に胸を張れる美しいシーンであり、誇れる場面でもあった。

見れば、挨拶する佐藤の目には涙が浮かんでいた。

「泣くつもりはなかったんですけどね」

ミックスゾーンに現れた佐藤はそう言った。ただ、「最後だと思ってプレーしていなかった」からこそ、あっけないとも言える広島での幕切れに口数は少なかった。それでも絞り出すように、広島での12年間を思い返し、応援してくれたサポーターたちへの感謝を口にした。

「サポーターはどんなときも一緒になって戦ってくれた。僕が広島に来たときとは、いい意味で変わってきていると思う。良い時間も苦しいときも一緒になって過ごしてくれただけに特別な存在という思いは今もある。だから、試合が終わって挨拶に行ったときも、涙を流すつもりはなかったですけど、自然と堪えることができなかった。改めて素晴らしい仲間と12年間戦って来られたんだなって思いました。もちろん僕は来季はグランパスのためにプレーしますけど、心の中でサンフレッチェというクラブは常に自分の中にあり続けますし、特別なクラブであることに変わりはない。しっかり結果を出して、選手としてもう一度オファーを出していただけるような成長をしていきたいと思いますし、サッカーの世界は何があるか分からないので、これで最後とは思いたくはない。ただ12年間、素晴らしい時間を過ごして来られたことは、自分にとっても大切な時間だったなって思います」

|自身の去就よりも試合の結果を悔しがった二人

もう一人、この試合を最後に、ユニフォームを脱ぐこととなった森﨑浩司も「勝てるチャンスもあっただけに悔しい。だからこそお兄ちゃんがいなかったことに文句を言いたいくらいです」と、勝敗を分けたひとつに試合の流れを読むことやコントロールする力が欠けていたことを挙げたからこそ、ボランチである双子の兄・森﨑和幸が体調不良で不在だった事態を悔しがった。

試合終了後には、アテネ五輪のときに世話になったという鹿島のGK曽ヶ端準のもとに行き、「タイトル獲ってくださいね」と声をかけた。そして無邪気な性格で知られる森﨑浩らしく、「最後に僕のお願いを聞いてもらえますか?」と言うと、「アゴを触らせてください(笑)」と冗談を言ったという。

「そうしたら頭をパシッと叩かれました(笑)」

森﨑浩はそう言って笑ったが、曽ヶ端は先に現役を引退する戦友を思いっ切り抱きしめてくれたという。そして、自身最後の公式戦となった森﨑浩は、「今日はサポーターの人たちも寿人にメッセージを伝えたかったと思う。僕は引退セレモニーもやってもらいましたからね」と話し、その思いを汲み取っていた。


2007年のJ2降格、2012年のJ1初優勝からはじまる3度のリーグ制覇と、苦悩も歓喜もともに歩んできた2人の功労者に、指揮官の森保一監督も賛辞を贈った。

「寿人に贈る言葉は、これまでのサンフレッチェの歴史を築いてくれ、チームを引っ張ってくれて、歴史を作ってくれてありがとうという言葉を伝えたい。森崎浩司も今年で引退することが決まっていますし、そういうサンフレッチェで結果を出そうということで、戦ってくれる選手たちと元日決勝で終わりたかった」

ただ、当の2人は自身の去就うんぬんよりも、試合に負けたことを心底、悔しがっていた。佐藤は「負けただけです。それ以外には特に何もない。本当に最後まで行きたかったですけど、チームとして力がなかっただけだと思います」と言い、森﨑浩も「現役を引退する寂しさというよりも、日本で一番タイトルを獲っている鹿島に負けたということのほうが悔しい。腹立たしいくらいです」と話した。

広島は間違いなく過渡期を迎えている。2人の功労者とともに3度のJ1優勝を成し遂げたからこそ見えてきた新たな景色がある。そして、国内最多のタイトル数を誇る鹿島に、善戦しながらも敗れたからこそ、今のチームに足りないところも見えてきたはずだ。

「(今日は)いい試合はできたかもしれないけど、ここから勝っていく試合をするために力をつけていくこと。鹿島さんのようにより勝負強く、勝負にこだわり、どうやったら試合に勝てるか。ギリギリのところを勝ちきっていけるようにこだわっていきたい」

広島にとって2017年は間違いなく新たなる船出となる。取り組むべき課題や目指すべき場所は、歴史を築いてきた2人の功労者の発言と指揮官の言葉に集約されている。

文・原田大輔
写真・佐野美樹

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