SOCCER PUSH UP! powerd by a-ticketSOCCER PUSH UP! powerd by a-ticket

世界一熾烈なプレミアリーグで成功する条件

2014.05.16

wc1|混戦を呈したプレミアリーグを制したマンチェスター・シティ

 最後に笑ったのは、マンチェスター・シティだった。5月11日、ウェストハムをホームに迎えたプレミアリーグの最終節が終わると、スタジアムにはお馴染みとなっているOASISの名曲『Wonderwall』が鳴り響き、サポーターは今季一番の大合唱でリーグ制覇を祝った。そして、ピッチには興奮を抑えきれなくなったファンが一気になだれ込む。その熱は、2年前の最終節でQPR相手に終了間際の劇的な逆転勝利を収め、44年ぶりの優勝を決めたときと比べても、同等かそれ以上のものだった。それはひとえに、今季のプレミアリーグ優勝争いが非常に白熱し、開幕前から優勝候補と言われたシティにとっても、決して順当ではなく、厳しい戦いだったことを暗に示していた。
 昨年から解説者に転身した元イングランド代表FWマイケル・オーウェンは、「プレミアリーグ史上、最も素晴らしいシーズンだ」と総括した。4月まで、リバプール、シティ、チェルシーの3チームに優勝の可能性があった今季のタイトルレースは、それほど熾烈で、魅力的だった。同時に、今のプレミアリーグは世界で最も優勝するのが難しいリーグだということが証明された。攻撃力、守備力、チームの勢い、確固たるスタイル、名監督、そして補強の成否を含めたタレント力。この競争を制するには、どれかひとつやふたつだけがあっても十分ではない。どれかひとつでも大きく欠けていれば、栄光には届かないのである。
 実際、シーズンを振り返ると、前半戦はアーセナルが、後半戦はリバプールが、王者シティよりも人々の心に残るインパクトを残している。

|シーズンを沸かせたチームのスタイルと哲学

 アーセナルには“スタイル”があった。昨年夏、アーセン・ベンゲル監督は補強の必要性が叫ばれていたストライカーでもセンターバックでもなく、チームで最も層が厚い2列目に、さらにメスト・エジルを獲得した。序盤戦、エジルは期待に応える働きを見せ、アーロン・ラムジー、ジャック・ウィルシャーといったMFの輝きを引き出した。2年目のオリビエ・ジルーも得点力を開眼させ、ベンゲルが丹念に構築してきたアーセナル流の流れるような攻撃は観客を大いに楽しませた。だが、年末までに首位を陥落すると、年明け以降は大一番での“イップス”が顔を出し、エジルの疲労や故障も重なり、徐々に優勝争いから脱落してしまった。
 変わって勢いを見せたのが、1月末から4月まで、怒とうの11連勝を飾ったリバプールだった。ブレンダン・ロジャーズ政権2年目の彼らもまた、“攻撃”という明確な哲学を全面に押し出し、中立のファンの心をガッチリ掴んだ。得点ランクの1位と2位を独占したルイス・スアレスとダニエル・スタリッジの「SAS」コンビは、2人だけで実に52ゴールをゲットした。この2トップに小兵のラヒーム・スターリングやフィリペ・コウチーニョを加えたパスワーク、さらにアンカー起用で新境地を切り開いた主将スティーブン・ジェラードが起点となるカウンターを巧みに使い分けたレッズ(リバプール)は、ゴール数のクラブレコードを軽々と塗りかえた。
 彼らには“勢い”と“攻撃力”に加え、柔軟に戦術を調整できるロジャーズの“監督力”もあった。“タレント力”の部分も、欧州カップ戦出場がなかったことが奏功して主力を固定することでカバーできた。それゆえ、優勝に最も近い2位だったわけだが、彼らもまた、あと一歩が届かなかったのは土壇場の勝負強さと“守備力”に欠けたからだった。圧倒的な攻撃力と裏腹に、50失点はプレミア創設後の最多数。ほとんどの試合を攻撃力でねじ伏せたが、ジェラードのまさかのスリップで敗れた4月末のチェルシー戦(0-2)、3点リードから追いつかれた翌節のクリスタル・パレス戦(3-3)など、ここ一番で自ら運を手放してしまった印象が強い。
 同じように、リーグ最少の27失点をマークし、ジョゼ・モウリーニョ監督復帰の効果を存分に見せた上、エデン・アザールやオスカルといった若手MFも躍動したチェルシーには、絶対的なストライカーが足らなかった。タレントは十分だったはずの前年王者マンチェスター・ユナイテッドは、勇退したアレックス・ファーガソンの“監督力”をデイビッド・モイーズが埋められず、ウェイン・ルーニーとGKダビド・デ・ヘアを除いた主力たち、つまりロビン・ファン・ペルシーや香川真司も含めた多くの選手が精彩を欠いていた。一方、ギャレス・ベイルの売却益で大型補強を敢行したトッテナムは、ロベルト・ソルダード、エリク・ラメラといった高額の選手たちが戦力にならず、後退を余儀なくされた。

wc2|シーズンを終え、最も総合力のあったマンチェスター・C

 そう考えると、シティの優勝は必然だったと言える。彼らはすべての分野において、トップではなくとも“トップレベル”は維持していた。攻撃面では、リーグ得点王と年間最優秀選手こそスアレスに譲ったものの、シーズン102得点はリーグ最多で、ヤヤ・トゥレ(20得点)、セルヒオ・アグエロ(17得点)、エディン・ジェコ(16得点)がしっかり2ケタをマークした。守ってはジョー・ハートとバンサン・コンパニを中心に38試合37失点。しっかり1試合平均1失点以下に抑え、失点数はチェルシーに次いで2番目に少なかった。
 既存戦力に加え、夏に補強したフェルナンジーニョやアルバロ・ネグレド、ヘスス・ナバスがしっかりと仕事をしたことで、終盤の連戦疲れもほぼなかったと言っていい。そして、ロジャーズほどのインパクトはなかったとしても、スター軍団を確実にまとめあげたマヌエル・ペジェグリーニ監督の手腕だって十分評価に値するものだった。結局、最も穴が少なく、総合力に秀でたチームがトップに立ったのだ。
 最終的に1位シティと2位リバプールの差を分けたのは“バランス”だったが、同時に、トップを争った彼らがいずれも“攻撃”をテーマに掲げてシーズンを戦い切ったことは、プレミアリーグにとって歓迎すべきことだろう。リーグ全体で言えば、全380試合で1052ゴール(1試合平均2.76ゴール)は最近5年間で最も少ない数字ではある。だが、今季はシティ(102得点)、リバプール(101得点)の2チームが同時に100ゴール越えを達成しており、これはプレミア史上初、イングランドのトップリーグでは1960-61シーズン以来、実に52年ぶりの出来事だった。
 リバプールのロジャーズ監督は、「今季は素晴らしいフットボールを披露し、100ゴール以上決めた。どこを改善すべきかは分かっている。来季はもっと強くなっているはずさ」と手応えを口にした。
 優勝監督ペジェグリーニも、「もちろん優勝はうれしいが、それ以上に優勝した“方法”に満足している。たしかに1ゴールを決めてあとは守備を固めるのも簡単だ。他チームのスタイルを批判するわけではないが、私はそういうやり方で優勝してもうれしくない。成功の秘訣? チームのプレースタイルを信頼することだ」と胸を張った。
 彼らのように、“攻撃”を軸に置いた上で総合力を追い求めるチームがタイトルレースを引っ張り、トレンドを作り上げていけば、プレミアリーグはもっと面白くなるはずだ。ワールドカップを挟み、速くも楽しみな来季に向けて、最後は元イングランド代表MFで、現地の人気解説者であるジェイミー・レドナップ氏の言葉で締めてもらおう。
「もちろん、来季のシティが連覇することは簡単ではない。ユナイテッドも黙っていないし、モウリーニョは何が何でもリーグ優勝を獲りに来るだろう。アーセナルも再び優勝争いに絡むだろうし、リバプールもスアレスを残留させることができれば再び優勝を狙える。その5チームが優勝争いを演じてくれるのなら、来季はさらに素敵なシーズンになるだろう」

(文:寺沢薫)

PAGE TOP
  • INDEX

NEW ENTRYNEW ENTRY

NEWSNEWS

PICK UP MATCHPICK UP MATCH

COLUMNCOLUMN

WORLD FOOTBALL COLUMNWORLD FOOTBALL COLUMN

INTERVIEWINTERVIEW

PREVIEW OF SPECIAL MATCHPREVIEW OF SPECIAL MATCH

【固定】twitter
【W杯予選】狙い通りの完璧な勝利で、日本代表が6大会連続W杯出場決める!
国内実績十分の“助っ人”たちの活躍が光るJリーグ[COLUMN]
【W杯予選】久保の活躍でタイに大勝も、露呈した課題
ストライカーの活躍はチームの成績と比例する[COLUMN]
【石川大徳】後編「ケガで苦しんでいる選手たちのサポートがしたい」
広島を支えた佐藤寿人と森﨑浩司が最後の試合で見せた姿勢[COLUMN]
広島・森崎浩司が現役引退を決意したきっかけと思い広島・森崎浩司が現役引退を決意したきっかけと思い
【関根貴大】仕掛け続けるサイドアタッカー。ボールに執着する姿は子犬のよう【PLAYER’S FILE vol.07】
【中町公祐】ピッチ内では泥臭く、ピッチ外では爽やかなボランチ【PLAYER’S FILE vol.06】
【伊東純也】抜群のスピードでピッチを駆け抜ける“IJ”【PLAYER’S FILE vol.05】
【江坂任】物腰の柔らかい紳士だがプレーは泥臭い「王子」【PLAYER’S FILE vol.04】

PICK UP MATCHPICK UP MATCH

RSS